事例プロセス解説

SaaS新規事業の立ち上げ全プロセス——
0→1を担った事業開発リードが
振り返る判断のポイント

2025.04.22📖 約11分

「立ち上げの2年間を、正直に振り返ります。」——大手IT企業の社内ベンチャーとしてSaaS事業を立ち上げ、2年でARR1.2億円を達成したMさん(35歳)はそう言って話し始めた。

成功した、と外から見える事業でも、内側では何度も諦めかけた瞬間があった。このインタビューでは、0→1の現場で行われた「判断の連続」をフェーズごとに振り返る。

1. Phase 0:アイデアの発見と課題設定

「最初のアイデアは、自分が担当していた社内業務への不満からでした。中小企業向けの営業プロセスで、提案書の作成に異常なほど時間がかかっていた。これは自分だけじゃないはずだ、と思ったのが出発点です。」

しかし、最初の課題仮説はすぐに覆された。営業担当者向けの「提案書自動生成ツール」を想定していたが、顧客インタビューを始めると、本当のペインは別のところにあることがわかった。

「提案書の作成よりも、『誰に提案すべきか』を判断する情報が社内に散らばっていることが問題だったんです。提案書を速く作れても、的外れな先に送っていては意味がない。課題の定義を完全に変えることになりました。」

POINT

最初の課題仮説が覆されることは、失敗ではなく「正しい学び」です。仮説を持ってインタビューに臨み、そこで仮説が崩れたなら、崩れる前に開発を始めなかったことを喜ぶべきです。Mさんのケースでは、最初の3週間のインタビューで方向転換を決断したことが、その後の2年間の効率を決定づけました。

2. Phase 1:最初の100社へのインタビュー

方向転換後、Mさんは「中小企業の営業担当者が抱える情報管理の課題」を検証するために、100社のインタビューを実施することを決めた。

「お金を払う」と言った人が払わなかった

インタビューを進める中で、最も印象深かった経験がある。「20社くらいインタビューした段階で、半分以上の人が『これは使いたい、お金を払う』と言ってくれた。自信を持ちかけたのですが、実際に『では来月から月5,000円でご利用いただけます』と連絡したら、返信すら来なかった会社が半数以上あった。」

この経験から学んだのは「インタビューでの意向と実際の購買行動は全く別物」ということ。Mさんはその後、インタビューの場で「ではロイヤリティとして◯円お支払いいただければ、完成前から使っていただけます」という形で、意向確認を「仮払い」に変えるプロセスを設計した。

3. Phase 2:MVP開発と最初の10社

100社のインタビューを終えた段階で、Mさんは「捨てる機能リスト」を作った。当初検討していた機能の約60%を削除し、「顧客が実際にお金を払った理由」だけを残した最小限のプロダクトを設計した。

機能判断理由
顧客データの自動取り込み✅ 残す「これがないと使えない」という声が8割
ダッシュボード可視化✅ 残す意思決定の主要な価値として言及多数
AI提案文自動生成❌ 捨てる「あれば便利」止まり。支払い理由にならない
CRM連携❌ 捨てる導入障壁になると判断。後で追加可能
チームコラボ機能❌ 捨てる個人利用から始まるユースケースが大半

最初の10社との契約では、Mさん自身が毎週対面でフォローした。「月次チャーン(解約率)を5%以下に抑えることだけを考えていました。1社でも解約すると、そのフィードバックを深掘りして、プロダクトに反映する。この繰り返しで最初の6ヶ月を過ごしました。」

4. Phase 3:PMFの手応えと組織拡大判断

「PMFを感じた瞬間は、はっきり覚えています。あるお客様が『これなしでどうやって仕事していたのか思い出せない』と言ってくれた時です。そしてその週、同じ業界の別の会社から『◯◯さんから紹介されました』という問い合わせが3件来た。」

リファラルが自然に発生し始めたことが、PMFの最大のシグナルだったという。採用のタイミングについては「PMFを感じた後でも、さらに3ヶ月待ってから採用を始めました。早く採用して、プロダクトが変わるたびに新人を混乱させるのが怖かった。」

NOTE

0→1フェーズで採用が必要なのは、PMFの確信が得られた後です。「人を増やせばもっと早く進む」は0→1では誤りで、むしろ人が増えると学習ループが遅くなります。創業期の少人数チームは、不確実性への適応速度という最大の武器を持っています。

この記事のまとめ

0→1経験を次のキャリアへ。

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