事例プロセス解説

製造業のDX推進担当が語る「社内を動かす」プロセス——
稟議の通し方から現場巻き込みまで

2025.03.18📖 約9分

「DXという言葉が出た瞬間、現場が固まるんです。」——大手製造業でDX推進を担当するYさん(38歳)は、そう苦笑いしながら語り始めた。

「デジタルは俺たちの仕事じゃない」「今まで通りで問題ない」——こうした声が現場から上がる中で、どうやって稟議を通し、現場を動かしてきたのか。3年間の試行錯誤から得た知見を聞いた。

1. 製造業DXの特殊性:なぜ「普通のやり方」が効かないか

IT業界や他業界でのDX推進との最大の違いは「現場の長い業務歴と設備投資の重さ」にある、とYさんは言う。

「製造現場のベテランは、今の業務プロセスを20〜30年かけて磨き上げてきた。そこに外から来た人間が『デジタルで改善しましょう』と言っても、まず信頼してもらえない。『あなたはこの設備のことをどれだけ知っているのか』という目で見られます。」

また、製造業の設備投資は数億〜数十億円規模のものが多く、「既存設備を変えること」への抵抗は非常に強い。IoTセンサーを取り付けるだけでも、設備保証の問題、組合との協議、安全審査が必要になることがある。

NOTE

製造業DXで「スモールスタート」を提案すると「それだけの効果のために設備を触るのか」という反応が返ってくることがあります。製造業では「小さく試す」という文化が根付いていないケースが多く、最初から「意味のある規模の実証」を提示する必要があります。

2. 稟議を通す前の「地ならし」プロセス

Yさんが最も重視するのは、稟議書を書く前の「地ならし」だ。公式な稟議の前に、非公式な合意形成を積み上げることで、承認会議が「決める場」から「確認する場」に変わる。

現場キーパーソンを「個別に回る」技術

「稟議を出す3〜4ヶ月前から、現場の主要な人物を個別に訪ねます。『今、DXの施策を検討しているのですが、現場的に何が課題か聞かせてください』という形で。提案を売り込むのではなく、課題を聞きに行くのです。」

この過程で、現場の本音の課題が把握できる。そして「この課題を解決するためにデジタルを使う」という文脈で稟議を書けるため、現場の反感を受けにくくなる。

「反対派を減らす」のではなく、「中立の人を味方にする」という発想が重要だとYさんは言う。強い反対派を説得しようとするエネルギーより、中立の多数派を少し傾けることのほうが、コスパが高い。

3. 稟議書の書き方:経営層に「伝わる」数字の作り方

製造業のDX稟議書で最も難しいのは「効果の定量化」だ。ITツールの導入効果は、製造業の経営層が重視するKPI(不良率・稼働率・リードタイム)と直接結びついていないことが多い。

DXの効果製造業KPIへの換算数値化のポイント
データ収集の自動化検査工数削減→人件費削減現在の検査工数×時間単価で算出
異常検知の早期化不良率低下→廃棄コスト削減現在の不良率×材料コストで試算
生産計画の最適化稼働率向上→機会損失削減現在の稼働率ギャップ×生産能力で算出
紙業務のデジタル化作業時間削減→労働生産性向上紙処理工数×頻度×時間単価で算出

「効果が不確か」な案件の定量化については、「保守的な試算」が重要だとYさんは言う。楽観的な試算は後で「言ったとおりにならない」として信頼を失う。現場のベテランに確認した控えめな数値のほうが、説得力が高い。

4. PoC成功後の本格展開:現場を「主役」にする仕掛け

「導入した」で終わるDXプロジェクトと「現場が使いこなしている」DXプロジェクトの差は、PoCの終わり方にある、とYさんは言う。

「PoCが成功した後、『展開しますよ』と本社が決めて現場に押し付けると、必ず抵抗が起きます。PoCの段階から現場の人が『自分たちで作ったもの』という感覚を持てるように設計することが、本格展開の成否を分けます。」

具体的には、PoC段階から「現場の担当者をプロジェクトメンバーとして巻き込む」「現場の改善提案をシステムに反映する」という設計が有効だという。

EXAMPLE

Yさんが担当したIoT導入案件では、PoCの設計段階から現場ベテランを「DXアドバイザー」として正式に任命し、彼らの知見をシステムの設計に組み込みました。展開後の使用率は他工場のDXプロジェクト平均の2倍以上となり、「自分たちが作ったシステム」という意識が定着の鍵になりました。

この記事のまとめ

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